へぇ、両親いたんだ?
いない。そういなかった。兄と、兄だけと一緒にいた。
一緒に暮らしていた。
当たり前すぎて疑問すら思わなかった。
<いつから>兄と一緒にあの家にいた? 小さい時だから覚えていない? 覚えているのは朝食を作ってくれる、見送ってくれる兄の姿だけ──
学校? 友達? 近所の人?
いなかった。
そう両親と同じ。いなかった。
冷や汗が流れた。寝起きが悪かった。朝起きて朝食を食べて、ドアを開ける。その後の記憶がない。気付くとまた朝で──
気をつけて
毎日言われていた。
気をつけて
何に?
「おいっ!おいっ!ユキ!」
自分の世界にいた之が、ビクッと躰を震わせると、現実に戻って来た。
「あっ……なに?」
「自己紹介! しないとな、やっぱり。俺はカタカナでユキ! でそっちは」
「初めまして、挨拶が遅れました。私はユキの聖巫女<桜>です」
之が首を傾げながら訊ねた。
「聖巫女って……何ですか?」
桜が優しく微笑みながら説明をする。ユキは離れて部屋の窓に向かっていく。
「聖巫女、聖なる巫女と言われています。私は生涯<ユキ>に仕える者です。でも全ての巫女がユキに仕えられるわけではありませんし、私はたまたま巫女だっただけです」
わけが分からない。疑問が増えるだけだった。
「あっ! あの僕も自己紹介を之です。字は」
空中に字を書こうとした時、桜がスッと手を差し出してきた。
之が慌てながらその手に之と字をなぞった。
「之。分かりました。ありがとございます」
「い・いえ、あああああの、それでよく分からないんですけど」
本当に何が何だか
「えっと、やっぱり順を追って話しますね。この世界には<雪>があるんです」
「雪は空から降るあの真っ白いやつですよね?」
「はい、でもその雪は違います。あなたは<雪>を見ましたか? ただ雪が存在する、雪だけの世界──」
「は……い」
思い出しても奇っ怪な雪だけの地。雪が生き物みたいに動き、のみ込んで来た。気付けばここにいる──