見知らぬ場所で見知らぬ二人と今はここにいる。
「雪……あの雪は」
「その<雪>は我々が目指す新境地です。雪だけの世界。私達はその世界に行く為なら何でもします」
何でも? あんな場所に行くために?
「何故? 行っても雪しか無かった。それに──」
桜が首を振る。ギュッと服を握るとうつ向きながら言った。
「だから行くんです! 私達はもう──その世界しか無い」
悲鳴にも似た声で言われた。握り締めている手が震えている。泣いているように見えた。
「別にいーじゃん。行きたいなら一緒に行けば、なっ?之」
窓の近くに佇み、外を見つめていたユキが言った。上下式の窓をガコッと持ち上げ開けた。
「之も行くよな?もちろん」
「何で? 僕まで……」
「だってあの世界が俺達の<還る>場所だから」
かえる? 帰る場所?
「僕は……いったい何?」
「雪から生まれた雪かな? でも人間でもあるし、そーだな、雪男!」
明るい声で、あっけらかんとしながらユキが言った。何だか力が抜けるユキの楽観さに少し救われていた。
「あの僕が今までいた所は……兄さんは僕の兄さんだよね?」
僕の帰る場所は兄さんの所に決まっている。わけの分からない事ばかりだけど、でも毎日食べていた朝食は美味しかった。
会いたい。会って兄さんに訊きたい事がたくさんある。
「ダメだよ」
ユキが言った。険しい顔で、声に怒りが満ちていた。
「なん……で?」
突然、怖い形相になったユキにビビりながら訊いた。
ユキは何も言わなかった。
沈黙に困っている之を見かねて桜が話す。
「──……多分、之が言う<兄>はあなたを殺す者です」
えっ?と思ったその疑問は声になっていなかった。
「あの男は生まれたばかりの之を拐って行った。何が目的か分からない。でも分かる。雪を嫌うやつらだ……きっと」
拐う? 誘拐?
何それ、もう
嫌だ──
わけが分からない。
ここはどこ?
助けて
僕の帰る場所に
兄さん──