ユカは、黙ってドアの方をにらみつけていた。
きっと、渋川は、
ユカのお父さんが、将来、市議選に立候補するコトを知っているから、
あんなコトを言ったのだろう。
教育委員会の教育長である、森宮の父親は、
そちらのコトにも精通していると思うから。
『みんな、大丈夫?!渋川先生、いきなり怒鳴ったりして、大人気ないわね!!』
篠原先生が、あたし達を気遣い、そう言ってくれた。
ケド、篠原先生の言葉に、
聖人も、ユカも、黙っていた。
まだベッドの中に横になっていたあたしは、
起き上がるタイミングを探していた。
『木下さん、具合はどう?!』
そんなあたしの気持ちを察してくれたかの様に、
篠原先生が、あたしに話し掛けてくれた。
『はい。もう大分、気分が良くなりました。』
『そう。良かった。でも、もう少し休んでいきなさい。』
『はい。でも、もう具合も良くなったので。』
あたしは、ベッドから起き上がった。
『奈央。無理すんなよ?!まだ寝てろって!!』
心配顔の聖人が言った。
『そうよ。ただでさえ、奈央は貧血気味なんだから。』
聖人に次いで、ユカも。
『ありがと‥‥聖人、ユカ。でも本当に、もう大丈夫だから。』
独特の消毒薬の匂いにも、そろそろ慣れてきた。
保健室に来てから、どれ位の時間が経過しただろう――
『みんな強いね!!先生も、みんなと同じ中学生位の頃は、色々な事で悩んだな。』
篠原先生の一言に、あたし達3人は、一斉に注目した。
『へぇ。先生の中学生時代って、どんなだったの?!
すげぇ優等生だったとか?!』
聖人が、真っ先に質問すると、篠原先生は、ますます意外な答えを返してくれた。
『優等生どころか、結構、問題児の部類だったわよ。』
『え゛?!マジで?!』
篠原先生の質問の返答よりも、聖人の反応の方が、面白かったな。
『先生、今回の件で、詳しい事は何ひとつ知らないけど、
これだけは覚えておいてね。
大人は大人でも、腐った大人ばかりじゃないって事!!』