手首の躊躇い傷からは血も流れなくて虚しい
歩くのは嫌いじゃない
このまま来世へ歩いて行けたらいいのに
無駄に皮膚は温かく
面倒くさげに脈は鼓動し
呼吸している
それって
私が?
…?
汽笛が遠くでなってる
それ以外の音は雑踏で聞き分けることもできないし そもそも音や色や風景に、五感を働かせようとも思えなくなっていた
スリップのようにも見える薄手のシルク素材の白いワンピースにごつごつと鎖骨や肩の骨が剥き出すばかりか
一月前に美容院を出たときにあった顎のラインで外側にカールしたゆるい曲線はのびきって艶をなくしていたし
人と肩がぶつかるほどの路をフラフラとさ迷い何人かの人が振りかえり首をかしげたり鼻を押さえ睨むように見ていったようだった
おそらく私から酒臭がするのだろう
どうでもいい…
いつからだろう
私の中に彼女が息づくのを知ったのは
つい2時間前、男の腕に顎の力めいっぱい噛み付き逃げてきた