昼休み、嶋野に会う前に、2通目の手紙を読むことにした勇一は、休憩室で、読みはじめた。
〜勇一へ〜
覚えているかなあ
15年前、2人で、ストリートライブを見たよね?
帽子被って、サングラスかけてたけど、すごく心に残る曲なんだろうって思ったんだ…
悲しげな歌だったけど、勇一に病気を隠してたから、すごく感動したんだ。
あの時、歌っていたあの人は、今どうしているんだろう?
今も歌っているんだろうか?
今も、人々の心に残る曲を作っているんだろうか?
今となっては、私は知ることすら出来ないけど、きっとそうであって欲しいなあ〜
勇一は、どうだったの?
…私はね、あの曲を聞いたから、残された時間の中で、勇一に手紙を書き、15年後に届くように、お兄ちゃんに頼んだんだよね。
きっと幸せになってると思うから…
こんな形で、15年も、空白を作ってしまって、ごめんなさい…でも私はね、勇一といる時間は幸せだったよ!
2通目の手紙はここで終わっていた。
勇一は、かすかな記憶を、思いめぐらせた…
15年前…そうだ、由美と歩いている時に、今でこそ頻繁なストリートライブを、やっていた1人の男の歌に耳を傾けたっけ…
確かに、悲しげな歌だった。
由美は、泣いていたっけ…
…そうか、あの時、由美は俺に病気を気づかれまいとしてたんだな。
痛みを隠して、俺の前では、笑顔でいたんだな。
だから、あの曲を聞いて、涙が出たんだな…
勇一は、少し泣けてきていた。
「荒木君、どうしたんだ?」
ふと、見ると店長が立っていた。
「あ、いえなんでもないです」
「そうか。ところで、大事な話なんだが…」
「何でしょう?」
「実は、君と、中村君、来週付けで異動だ。突然だがな」
「異動…ですか。わかりました。中村もですか?」
「まあ、管理職の俺がこんなこと言うのは不謹慎だが、2人とも、いろいろと問題…まあ、男女間の関係とか、仕事も含めて解決しておけよ」
…店長の言葉に、驚いた勇一だが、心配してくれていたことに感謝していた。
店長が去ったあと、勇一が、由美の手紙を読み直そうと、した時、幸子が目の前に立っていた。
「その封筒…」
「え?封筒?夕樹さんどうしたの?」 幸子は、勇一の持っていた封筒を見つめていた。