「一先ず今日はベラ湿原の入口にあるチルビノまで行こう。今から急げば、夜には着く」
「そーだね」
フェンリはにっと笑った。
「でもさあ、ダニエルはよく僕らを行かせるよね」
「止められてもおまえは聞かないだろう」
私はフェンリをちらっと見た。
「そーだけどぉっ」
「ダニエルの狙いは、アリスを救うことじゃあないよ」
「どういうこと?」
フェンリは足を止めた。
「ダニエルの目的は、私をリヒネに向かわせ、軍にダメージを与えさせることだ…この漆黒の悪魔に」
私は俯いた。
「なーんだ、知ってたのかあ」
フェンリはフゥッとため息をついた。
「知ってたって…お前、ダニエルと共謀してたのか」
私はきっとフェンリを睨み付けた。
「違うよ。僕の目的はアリスだしね。…ただ、ダニエルの考えは察していただけ」
フェンリはニッコリと微笑んだ。
フェンリは、僅か16歳の少年だが、時々まるで大人のような顔を−−いや、自分より年上の人間達を遥か上から眺めているような顔すらする。その狡猾さと、彼の優しさという二面性が、時々私を警戒させてしまう。
味方なのはわかっている。しかし、彼が何を考えているのか、本心が掴めないのだ。