川のそばのガードレールでおばあさんがおろおろしている。
「どうかしました?」
訪ねてみた。
『いえね,うちの孫がこの間事故で死んじゃったのよ。』
今にも泣きそうな顔で答える。
ばあさんを泣かす趣味はない。
「はぁ・・お気の毒です。」
『その時に大事にしてたハーモニカを川に落としたみたいなのよ。
私腰が悪くて川までおりれなくて・・・。』
ちらちらこちらを見る。優しそうな顔してなかなかやらしいばあさんだ。
ガードレールの向こうは川まで軽い坂があって,確かにおばあさんにはキツい。
「いいですよ。自分が取ってきます。」
バッとガードレールを飛び越し,川に降りた。
すると,坂の途中に下水が流れる小さなトンネルのような穴があった。
その入り口に血がべっとりついたハーモニカが落ちている。
「げっ・・・これか?」
事故にあったと言っていたから,その子の血だろう。
しかし血はとうに乾いているのに,たった今着いたかのような凄まじい血の匂いがする。
とにかくそれをおばあさんに持っていった。
「これですね!どうぞ。」
ハーモニカをおばあさんに渡すと,可愛らしい笑顔で,
『ありがとうね・・。
持って行ってあげなきゃ。』
そう言うとおばあさんは力なく頭から岩肌へ飛び込んで行った