死者の戯れ

風戸 桂  2009-06-01投稿
閲覧数[547] 良い投票[0] 悪い投票[0]

……?……

時刻は、午後11時半。とあるマンションのエントランスに、霧島直哉はいた。

ここは、直哉の住むマンション。彼がいても何らおかしくはない。
だが、それにしては、どこかぎこちなく、中へと足を踏み入れずに、オートロック扉の前に佇んだままだ。
まるで、家へ帰るのを躊躇っているかのように…。

出張帰りの直哉の表情は、疲労感が滲みでている。ともなれば、普通なら居心地の良い、我が家へと足は加速するもの。にも関わらず、その足は立ち止まり、家路へ着こうとしない。

「はあ…」

直哉は、憂鬱そうに、大きなため息を吐くと、今度は、そわそわ落ち着きなく、扉の前を行ったり来たりし始めた。

そんな彼の家路を妨げる理由は、妻の七海にあった。

実のところ、二人の仲は上手くいってなかったのだ。それが原因で、直哉の足には重い鉛が課せられ、我が家への進路を阻まれてしまう。

まあ、仲が上手くいかない夫婦なんてのは、この世の中、五万といる事だろう。年々、離婚する夫婦が増加している事からも、それは見てとれる。

そもそも、夫婦なんてのは、所詮は他人同士。その男女が、同じ屋根の下で暮らす事自体、非常に難しい事。生まれや育ちも違ければ、互いの生活スタイルも違う。歪みが生じて、当たり前だ。

直哉達も、そんな夫婦のターニングポイントへと差し掛り、今では互いの顔さえも見るのもままならぬ状況にまで陥っていた。

だからって、ずっとここにいるわけにもいかない。暫く、ドアの前を行ったり来たりしていた直哉だったが、覚悟を決めたかに、オートロックパネルの暗証番号を押した。



投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 風戸 桂 」さんの小説

もっと見る

ミステリの新着小説

もっと見る

[PR]
海外セレブを魅了☆
☆ピチピチのお肌に


▲ページトップ