喉が渇いた。
そう思いながら、口に水を含ませる。
君がいなくなってから、もう何週間が経っただろうか。
1週間?
1ヶ月?
1年?
あぁ、そんなのどうだっていい。
こんなこと考えても、君は戻ってくることはないのだ。
君は突然、僕の元から去った。
置き手紙が無い広い部屋に、取り残された僕はぽつり。
いつもより整頓されて、冬を感じさせる暗い部屋に佇むしかなかった。
君の消失に混乱して1時間、待った。
君の身を心配して、もう2時間、待った。
君の帰宅を期待して、もう3時間、待った。
君の存在を疑躍して、はもう5時間、待った。
君は帰ったこなかった。
そこから時間が狂いだしている。
もう何もかもがわからない。
自分は?自分だ。
君は?君だ。
じゃあ、帰ってこない君は?本当の君?君なのか?
君が戻らないこの場所は正しい?本当に僕の部屋?君がいないのに?
時は?空間は?世界は?
あぁ、ダメだ。
君が帰ってこないこの世界は全て、嘘っぱちにしか感じられない。
本当の世界はもっと別の場所にある気がするのだ。
あぁ、そうだ。
別の世界だ。
この世界には用はない。要がない。
ドアを開けて、夜の街へ出て行くことにした。
凍てつく風を受けながら、マンションの前へ出る。
部屋着のままということには、数分経ってから気づくことができた。
暗い夜。月さえ途絶えた、この街には雪が降る。
その雪を照らすほのかな街灯の光を頼りに君を探した。
自分の足元にあるものを跨ぎ、君の名を呼ぶ。
自分の足元にあるものを目に入れずに、君を探す。
そうしているうちに、寒さに負けて帰ることにした。
だが、今からマンションに戻るとアレを見てしまう。
精一杯、見ようとしなかったアレを。
――君の凍死体を
「うわああああぁぁぁぁぁっーー!!!!!」
自分のせいだ。
モタモタと君を待つことしかできなかった自分のせいだ。
もっと早く探しに行けば、こんなことにはならなかった。
寒さに凍える中、跪いて冷たい君を抱く。
喉が渇いた。
ヒリヒリするまで、渇く。
潤いが欲しい。自分の渇きを満たして欲しい。
そこらにある雪を掴み、口に押し込む。
胃が縮むような思いがした。けれども、渇きは満たされない。
ぐずぐずしていた自分では、決して満たされない。
喉が渇いてしかたなかった。