「あっ、チルビノってあれかな?」
フェンリは遠くに見える小さな集落を指差した。
「ああ…そうだな」
「なんだ、すぐ着くんじゃないか」
フェンリはうきうきした様子で私を見た。
「ばか。ここからが長いんだ。直線距離は短いが、これからこの森をぬけないといけないんだ」
私は崖下に広がる森を指差した。
「うへぇ…」
フェンリはうんざりした様子である。
「幸い迷うような道ではないし、害獣もいない。急ぐぞ。でないと森で野宿だ」
私はきびきびとフェンリの先を歩き出した。
「待ってよ、アッシェン」
フェンリは私を走って追いかけた。
「ん?」
「どうしたの、アッシェン」
フェンリは私の顔をのぞきこんだ。
「いや…今森に人影があったような…」
「え−?いーじゃん、さっさと行こうよ。日が暮れちゃう」
フェンリは私の手を引っ張った。
「そう…だな」
私はフェンリに引っ張られる形で森へと坂道をくだり始めた。