仕事が終わり帰る用意をはじめたヒナツに一人の男が歩み寄り話しかけた。
「なぁヒナツ。これから俺と飯でも食いに行かないか。」
「ごめんなさいキユリキ。ちょっと用事があるの。」
彼女はそう断って相手の返事を聞かないまま出口の方へ歩いていった。
「また誘うよ。」
キユリキがそう言うと彼女は振り向かず小さくバイバイと手を振った。
「用事があるってウソでしょ。」
車に乗り込みエンジンをかけようとしたとき勝手に脳内に住み着いたクロノが彼女にそう質問した。
「私はキユリキのことがそれほど好きではないからね。」
「ああ、そういえばあのキユリキって奴はヒナツのことが好きみたいだね。その言葉を言ってあげたら彼はどんな反応をするかな。」
クロノは相変わらず楽しそうに話す。
「それは直接的に言わないもの。私がその気でないと相手が理解出来るように諭して上げるのが一番プライドが傷つかないものだよ。」
「大体恋という感情は生殖まで円滑に進めるためのもの。そして性別がある生殖はより優秀な子を作る為のもの。キユリキみたいなもやしが本来求愛に成功するはずがない。まずは前提として無意味な行動であることを教えてあげないといけないよ。」
「その人が優れた遺伝子を持っているからといって恋愛感情を抱くとは限らないわよ。欠けているからこそ良く見えることだってある。まぁ相性によるところが大きいわね。」
「分からないな…完璧ほど美しいものなどない。」
「人間は元々完全ではないわ。完璧を人間に当てはめるのはお門違いね。」
小さな溜め息を吐いた後クロノがまた話し出した。
「面倒くさいね。明確な基準でもないと予想すら満足に出来ない。」
「だからこそいいのよ。」
議論を交わしている内に車はヒナツの家に着いていた。