僕は知らなかったんだ。
次世代仮想空間擬似装置、通称(NOAH)の実験体が彼女だったなんて。
慌ただしく駆け寄る研究員達が、緊急停止ボタンを押す。
だか、カプセルの中で眠った彼女は、目を覚まさなかった。
二年後。
「こちらがNOAHシュミレーターになります」
テスターとは違い、初期版のカプセルより断然快適になった。
配線も見当たらないし、アトラクションの乗り物に乗っているようだ。
外見は丸みを帯びているが、中はさながらコックピットのようだ。
ただし、このシュミレーターの中では「動く」事は無い。
カプセルの蓋が閉じていくと同時に、中は真っ暗になる。
だが次の瞬間、目が眩む程の閃光が全身に降り注ぐ。
その時だった。
「風?」
吹き込む風に、若草の香りがした。
目を開ければ、そこは一面見渡す限りの草原だった。
設定通りに第一ポイントに到着したらしい。
「まずは装備か」
それにしてもよく出来た仮想空間だ。
最先端の技術を応用した、次世代の「ノアの箱舟」との歌い文句はあながち嘘ではなさそうだ。
「初期設定で、武器は剣と薬草と初期装備だしな。お金も稼がないといけないし。どうしよっかなぁ」
「君は聞いた事があるかな?紅蓮の魔剣士の噂を」
振り返ると、そこには大剣を装備した、剣士が一人立っていた。