調教と教訓2(前回はタイトルを間違えました;)

うちは。  2006-07-16投稿
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生きていく上で、人間は必ず利用する者と利用される者とに二分される気がする。
私はきっと今、後者の立場に立たされているのだろう。
でもいいんだ、自分に危害が加わるわけではないのだから。

いつからか私はそう考えるようにして生きていた。


ホイッスルの音が高く響いた。
「全員集合してー!俺の周りに集まってぇー!」
その教師は体育を担当していた。
男子にも女子にも人望があって、いつだって彼の周りは明るく光っていた。

「今から二人一組ずつになってキャッチボールをしてもらうから。
エーとか言うな、最後に残ったやつが片付けだぞー!!」
大体決まっている仲の良いグループたちが二つずつわかれていく。
そしてその二つになったさくらんぼたちは、点々とグランドに散らばっていく。
結果、私はまた独りになった。

「尚子?」
「せ、先生…」
「キャッチの相手は?」
「余りました。」

一瞬だけ沈黙が流れた。
自分の言い方があまりにも幼い感じで、私はだんだんと恥ずかしくなった。

「オッケ。じゃあ俺とやろっか?」

何も聞かずに相手をしてくれる先生に私は救われていた。

「先生は、どうして教師になろうと思ったの?」
「えー?」
まぶしい太陽と風が木々を揺らす音と、生徒たちの高い笑い声。
私たちは、一時停止された時間にいるみたいだった。

「俺ってさ、元ヤンなんだよね。」
「え?!」
「中3くらいからヤンキーやってて、高校生までホント凄かったんだよ。」
「ふーん。」
「でもさ、俺みたいな奴ってたくさんいるじゃん?」
「うん。」
「それって、全部が全部そいつらが悪いって訳でもないんだよ。生きていく中で自分を心からわかってくれるような、そんな人とまだ出会えていないだけなんだ。」
「・・・・。」
「そういう奴らに必要なのは、社会のルールとかそういうもんじゃないんだ。気持ちを打ち明ける事の出来る支えになる、先生なんだよ。」

誰かが間違えて放ったボールが柵を越えて飛んでいった。

「だからかな。」

彼は、照れくさそうに笑いながら二度目のホイッスルを鳴らし、飛んでいったボールの方へ走っていった。


その言葉は不器用だったし、キレイなものではなかったかもしれない。
だけど生きる理由を分かっていない私には十分伝わる気持ちだった。

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