勇一と幸子は、偶然とはいえ、お互いの大事な人を、亡くしていた。
…しかも、同じ病気で。
年数は違うが、黄色の封筒にしたためた手紙の交流は、同じだった。
(女)「なんか、せつないですね…
手紙に共通点があったとはいえ、それぞれ付き合っていた相手は、亡くなってるなんて…悲しいですね」
(男)「ええ…つらいですね…」
(女)「あの…もしかして」
(男)「はい?」
(女)「幸子さんの亡くなった彼とゆうのは…(少しの沈黙のあと)先ほどの奥村とゆう人じゃありません?」
男は、少し黙っていたが、あっさり認めた。
(男)「そうですよ。彼女が、外国人のお客さんに対処出来たのも、通訳の勉強をしてしたからです」
(女)「やっぱりそうですか!…でも彼女は今、違う形で働いている。ならなかったんですね。目指したものには」
(男)「そうです…残念ですが。なっていて欲しかったですね」
男のその言い方は、今までの冷静な言い方より、本当に残念がっているようだった。
女には、それがなぜか、まだつかめていないが、ただ男の視線が、幸子に対して心配をする感じであることは、なんとなくわかった。
(女)「あの…」
(男)「もし…もしもですよ。さっきの偶然のように、手紙に書いてあった曲が、奥村とゆう人が押していた曲と同じなら…」
(男)「同じなら?」
(女)「同じなら…結果的にその曲が原因で、こんな悲しい結果になったのかも…」
(男)「そうではないと思いますよ」
珍しく、男はすぐに女の意見に対して否定した。
(男)「確かに、曲を通して、悲しいこともあったけど、逆に、荒木さんと幸子さんが、悲しさや、寂しさや、お互いの心にある閉ざされたものを氷解出来るかもしれません」
男の力説に、女は少し圧倒されたが、確かに、幸子と勇一の中にある、心のわだかまりを、解く鍵は、その曲かもしれない。
だが、悲しげな、その曲に、何か開かれるものは、あるのだろうか?
いずれにしても、勇一が嶋野に会うことで、そうなるかもしれない…
様々な思いを胸に、勇一と嶋野のやりとりを、見守ることにした。