もしや あなたは あの時の...
 子猫には その鋭い眼光に おぼえがありました。そう、枝に引っ掛かったのち落下してきた魚を空中で いとも華麗にくわえとってみせたクールガイなあの猫です。
 む、おまえは...
 子猫が つい漏らした言葉に反応してか、猫もホイッスルをキラリと揺らして子猫へ視線を射かけると 自身の記憶の中から子猫の姿を すくい上げるのでした。
 魚に降られて他猫に踏まれていたチビ。
 その形容に誤りは無いのですが子猫の柔らかなハートは いたく傷つきました。たとえ本当でも当事者への配慮を忘れてはいけません。
 ひ、ひどいにゃ...。せっかく カッコイイ?と思ってにゃのに...
 子猫は鼻白み傷ついた胸の内の傷つき加減を表すかのように悲愴な声をあげました。
 む、...。
 子猫の嘆きに良心をチクリと刺されたのか猫の瞳が戸惑いに揺らめきます。
 おい、チ..子供。用が無いなら とっとと失せろ。目障りだ。
 何たる発言を為すのか、子猫は さらにショックを受けて涙目です。猫からすれば充分 気を遣った形跡もなくはないのですが、なにぶん普段の使用言語形態が冷た過ぎました。
 ひどいにゃ゛ー。用にゃらある゛にゃ゛ー。きいてくれにゃきゃ もっと泣くにゃ゛ー。
 鼠を呼び集められる笛吹さんを捜している゛んにゃ゛ー。もう結構 時間かかったにゃ゛ー。
 もしや あなたが笛吹さんにゃ にゃいでずきゃー?
 子猫は泣きじゃくりながら 猫の洒落たサバトラ柄のコートに しがみついて訴えます。
 ぬ、の、ぬぉう...
 戸惑いを さらに深めた猫は 肯定なのか否定なのか さっぱり判りようがない言葉を 切れ長の口元から漏らしました。
 そうにゃんですにゃ?!今 おうって言ったにゃにゃ!
 そうだと言うんにゃー!
 と、ついには脅迫し始めた子猫の熱意に根負けした猫は子猫に件の笛を見せてあげることにしたのでした。
 何を隠そう この猫こそが 雀に その存在を知らされてから ずっと子猫が探し求めてきた笛吹だったのです。
 まあ、落ち着いて座れ。
 これのことだろう、チ..おまえが言ってる笛ってのは。
 と、渋い口調を取り戻して猫が出してみせたのは 龍笛でありました。