はっきり言って,俺は足が遅い。
明日は学校の体育祭で,くじで負けた俺はアンカーを務める事になった。
いじめられてる訳じゃないが,
足の速さに関しては《ドン亀》《遅マツ君》などとからかわれている。
「明日休みてえなぁ・・。」
そんな思いにふけっていた下校中。
“ドサッ”
突然空から不思議な袋がふってきた。
「なんだこれ・・?」
中を覗くと,不気味な程真っ黒な物体と紙が入っていた。
紙を読んでみると,
“ダークシューズ”
“オソロシイ ハヤサデ スベテヲ カケヌケヨ”
とだけ書いてあった。
足が速くなるのか・・?半信半疑で俺は家に持って帰った。
靴を出してみると,『黒』と表現するには明るすぎる程の深い,闇の様な色だった。
「凄い色だな・・まあとりあえず明日穿いて走ってみるか。」
次の日。体育祭だ。
アンカーは2周走る決まりだが,うちのチームは1周遅れで,勝つのは普通に無理だった。
これだけ離されていれば勝てないのは当たり前だな,と正直少し安心した。
リレーのアンカーで待機していた俺にバトンが渡された。
軽く踏み出した俺は鳥肌がたった。
《ドギャッ!!》
俺の足は耳をつんざく爆発にも似た音と共に,砂煙を巻き上げた。
気味の悪い速さで景色が流れている。色すら識別出来ない。
そう思った瞬間,俺は2位と大差をつけ,1位でゴールしていた。
しばらくの沈黙,そして周りから割れんばかりの拍手と驚きの声があがった。
観客から先生まで,全員が興奮している。
俺は間違いなく,その時ヒーローだった。
しかししばらくしてみんなの声が止まり,どよめきだした。
俺を見た人が悲鳴をあげている。
なんだ?どうした・・・。
意識が薄らぎ,俺はばったりと倒れた。
その瞬間,俺は死んだ。
あの靴が凄い速さで駆け抜けたのは,地面だけじゃなかったんだ。
スベテヲ カケヌケヨ
俺の死因は・・・・・・
老衰だった