「詩子ちゃん、女優の仕事、やらない?」
(また始まった、加藤さんのくだらない馬鹿話。)
「やりませんよ!私は歌一本でいきたいんです。」
「んなこと言ったって、お金、欲しいでしょ?」
嫌な人だ。私の綺麗事を簡単に見抜いてしまう。
確かに、私は金のために歌を歌っている。このろくでもない昭和の時代を生き抜くために。
そして家族のために。
少し昔の話をしようか。
私の家は(自分で言うのもなんだが)裕福だった。田舎の地主でそこそこの収入があった。父と母そして姉が1人。それなりの幸せがいつも近くにあった。
それも、長くは続かなかった。
運命を憎みはじめたのも、この頃からだった。