人斬りの花 6

沖田 穂波  2009-06-08投稿
閲覧数[481] 良い投票[0] 悪い投票[0]


2-1 椿

四年が過ぎ,抄司郎はこれまで何人もの人を斬った。
それは,
いつの間にか町の人々に[人斬り]として恐れられる程になっている。

だが,何度剣を振るっても未だにあの刀傷の娘の消息は不明だった。

『大海屋の京右衛門をひと月以内に斬れ。』

尽きる事のない武部の命令がまたもや抄司郎を締め付ける。

― 自分は何故人斬りとなったのだろう。

抄司郎には常にこの疑問がつきまとった。
武部が現れなければ,
師匠の道場の跡取りとなっていた筈である。
以前の生活との差を深く感じて,
もはや人斬りとして後戻りの出来なくなった自分に時々腹を立てた。



今日も夜の道を歩いた。
大海屋の京右衛門を斬る為に後を付けているのである。
やがて,京右衛門は細い路地へ入った。
どうやら,
何か裏の取り引きへ向かっているらしい。

『待て。京右衛門。』

すぐさま剣を抜いた。
いつものように相手は即死である。

しかし,
今日は少量の返り血を浴びた。
刀の切れ味が悪くなってきているようだ。

汗を拭って,
一息ついた時,
微かに土鈴の音と香の香りがした。

抄司郎はぎょっとした。
1人の女がどこからか近づいてきたのだ。
女は抄司郎を恐れる風でもない。

女は抄司郎のすぐ側まで来ると,
抄司郎の頬についた返り血をそっと拭いた。
抄司郎はまだ手に刀を握ったままである。


『あなたは‥。』

女が呟いた。女の顔は,
夕闇で見えない。

人斬りの自分を恐れない女に抄司郎は唖然としていた。

『可哀想な人。』

女の言葉は,
抄司郎の心を見透かしているようだった。

その言葉に,
押し殺してきた心の裏側にまで入り込まれたような気がして,

抄司郎は,
持っていた刀を反射的に地面に落とした。


≠≠続く≠≠


i-mobile
i-mobile

投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 沖田 穂波 」さんの小説

もっと見る

恋愛の新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ