暗い路地に男の悲痛な叫びが響き渡る。
「‥こっ‥この野郎!」
もう一人の男が銃を拾いグレイに銃口を向ける。
グレイはそれより速く、もう一つの手で銃を取り出し、何の躊躇も無く男に向け発砲した。男は「ぐあっ…!!」と、薄い悲鳴を上げ、右足を抱えうずくまる。
銃を胸元にしまったグレイは、ガラスの棒を突き刺された男の顔に近付き、凄い見幕で怒鳴り散らした。
「お前は、何を見た!この左の傷を見たのか?この瞳の色をちゃんと見たのか!?言ってみろ!!!」
「ぎゃあああぁ!!ゆっ‥許して‥」
男の手の甲から、大量の血が腕を伝って流れ落ちる。
「お前らみたいな奴が居るから‥あいつは‥!」
サイレンの音が遠くから近づいて来る。
「・・・チッ!」
グレイは男の手を離し、胸元のハンカチで傷ついた自分の手を拭いた。そして、少し落ち着いた口調で二人の男に向かって言った。
「私は警官だ。今度あの男と間違えたら‥殺しますよ」
「ひぃぃぃ!」
男は、うずくまるもう一人の男を抱え、グレイの前から逃げ出した。
「・・・ザコが」
グレイはゆっくりとタバコに火をつけた。
ここはバルクより少し離れた街。
その街の高級ホテルのスイートルームにベルの音が響きわたる。
「‥どうぞ」
インターホンのスピーカーから、若い女性の声が聞こえ、部屋の扉が解錠される音が鳴る。
最上階にあるその部屋は、ホテルの屋上にあった。緑に囲まれ、小さく入り組んだ小川が流れ、鳥の鳴く声が聞こえていた。
小川に架かる小さな橋の先に、トレイを持ったルームサービスの青年が立っていた。
「失礼します。アイス珈琲をお持ちしました」
オールバックの黒いチョーネクタイを付けた青年が部屋に入る。
「ごめんなさい。今出られないの。そこのテーブルに置いといてくれる?」
広いリビングルームの横にある扉から声が聞こえた。
つづく