無惨にも埋められた鋭い牙に、戒音の鼓動が躍動する。
「月が・・」
戒音の視界が、真紅に染まってゆく。
力なく垂れ下がった腕。
赤と黒が交わってゆく。
戒音の瞳が、真紅に染まる。
その口元から、牙が覗く。
人であった思考が失われてゆく。
垂れ下がった腕が、闇色の髪に埋められる。
凄い力で髪を引かれ、喉をのけ反らせたクレイの唇に笑みが浮かぶ。
その喉元に、鋭い牙が喰らいつく。
頭上の月が真紅に染まっていく光景を、冷めた瞳で見据えていた花音が一輪の白い薔薇の花を手にして、その花弁を鷲掴みにする。
「始まったか」
血を貪っていた戒音が牙を離してのけ反ると、唇の端から鮮血が伝った。
歓喜した。
今まさに生まれ変わった事を。
「クレイ」
恍惚としていた彼の首に腕を回して、戒音はその胸に顔を埋めた。
「祝祭だ」
彼の一言で闇がうごめいた。
闇の中から続々と姿を現したのは、人の姿をした異形のモノ達。
都市は狂気に満ち溢れた。
「くすくす」
人でなくなった戒音は、屋上から悲惨な惨劇に微笑む。
化け物に血を吸われた人が、屍と化して街を徘徊する。
まさに地獄絵図さながらだった。