龍一は、壁に寄り掛かりながら考えた。
(何はともあれ、ここなら警察も来ないよな・・・)
明らかに日常とはかけ離れているこの場所。
警察なんかが来れるはずが無い。龍一はそう思った。
(もう・・・いつもの生活に戻ることはできないんだよな・・・そう言えば、母さんに『さよなら』も言えなかったな・・・。)
不意に、母のことが思い出された。
自分の選択は、正しかったのだろうか?
アキラのかたきを討つためとはいえ、半ば勢いで飛び出して来たようなものだ。だいたい、ここで本当にアキラのかたきを討てるのだろうか?
不安ばかりがのしかかり、龍一は壁に寄り掛かったままその場に座り込み、うつむいた。
シュン
「あっ、いた。」
龍一の前方のドアが開き、一人の男が出てきた。
(な〜んか暗いなぁ。)
男は、うつむいている龍一のすぐ目の前まで歩み寄った。
しかし、男の存在に気付いていないのか、顔を上げる様子はない。
「もーしもーし。」
呼び掛けに対し、ビクッと反応する。
龍一が顔を上げると、そこには自分と同い年くらいの茶髪の男が、だらりとめんどそうに立っていた。
「・・・誰?」
「あ、僕?僕は・・・」
男は首元あたりまである、ロングの茶髪をかきあげながら言った。
「ジョウ。宮ノ陣 情(みやのじん じょう)。よろしくぅ。」