一閃と同時に、化け物の胴体が切り離される。
その先にいるのは、青銀の髪を振り乱した花音。
彼の表情は険しい。
背後で貪っていた化け物に剣を突き立て、頭上を仰ぎ見る。
恍惚の瞳で校舎の屋上から見下す真紅の双眸。
「戒音」
もう知っている彼女でなくなってしまった。
最も濃い始祖の血を口にした純血種がどうなるか、花音には痛い程わかっていた。
「また過ちを繰り返すのか、戒音」
戒音は覚えていない。
あの箱庭の楽園のような、刹那の日々を。
それでも・・・。
「クレイッ!」
花音が咆哮を上げるなり、闇の翼が大きく広げられた。
「またお前か」
戒音を抱き抱えて地上に舞い降りたクレイに、花音が剣を構えた。
「罪の鎖で力を抑制させられた闘神など、恐るに足りぬ」
戒音から離れたクレイの手に、大鎌が握られる。
鋼の音がしたのはその瞬間だった。
平然としたクレイの刃がしっかりと花音の剣先を受け止めていた。
「お前になど戒音を渡すものか。あれは私の妻だ」
「そうはさせるかッ!」
何故、この男は盾突くのだろう。
戒音の視線は花音に向けられていた。
必死に食らい付く姿は、見ていて滑稽だというのに。
何故、私を求める。
私は闇の支配者である、クレイの妻なのに。
その時だった、大鎌が花音の左腕をかすめ、その鮮血が戒音の顔に跳ねたのだ。
戒音は指で拭うと、その血を舌先で舐め取った。
「ッ!」
その血は身を焼くような凄まじい甘美な毒だった。
思わず喉を焼かれた戒音は、うずくまる。
戒音の異変に気付いたクレイは、とっさに後退した。
「戒音」
戒音を抱き寄せたクレイは、忌ま忌ましそうに花音を睨み、戒音と共に姿を消した。
街を徘徊する化け物達は、形を失って黒い血溜まりへと変じる。
舌打ちした花音は、月が雲に隠れるのと同時に姿を消した。