この時間に淳からの電話? 何かあったのか…亜子は携帯をとった。
「もしもし。田代 亜子さんですか?」
「…?はい、そうですが。どちら様でしょうか?」亜子は淳の携帯から誰がかけてきたのか、瞬時に理解出来なかったが、相手が次に話出す前に理解できた。
「矢田ですが。うちの主人がいつもお世話になっているそうで。」
明らかに上から物を言う態度だったが、亜子は電話の向こうの状況がそうさせているのだろうと解釈した。
「私が母子家庭で仕事をして、営業と言う事にいつもお知恵をお借りして、ご主人様には感謝しております。」と、亜子はあくまでも相手を立てる言い方をした。
「うちのパパを取らないでいただきたいんですが。」
パパを取ると言う表現に亜子は疑問を感じた。
「あの、パパは取ってないですよ?」
「この人とはいつからですか?」
亜子は慰謝料目当ての質問だと思った。別に取りたければ取ればいいが、自分にそんな収入的な能力はない。
しかもまだ、心の問題で、身体の関係と言えばキス位のものだ。淳との純粋な関係をやらしいものにされたくはなかった。
「一体何の話でしょうか?ご主人様の悩みを聞かせてはいただきましたが、お二人で解決出来ない物をこちらに押し付けられても、どうしようも出来ませんよ。じっくり正面から話合われたらいかがですか?」
「一度こちらに来ていただきたいんですが。」美佐はあくまでも身体の関係があり、純粋な気持ちが働いて、淳が別れを告げているとは想像も出来ないだろう。しかも普通の不倫だとすれば、会いたいと言えば大抵、相手が手を切るはずだった。
「わかりました。いつ、何時にどこへ伺えば宜しいでしょうか?」亜子は全く動揺もしていなかった。亜子には全く不純な気持ちなどなかったからだ。