「ご両親もおいででならぜひ一緒に…」
圭吾の母親の言葉を二階の華や紅に伝えると、太一はとりあえず圭吾の母親を一階の居間に案内した。
いつもと感じの違う圭吾の母親に太一は胸騒ぎを覚えた。
「華さんに何の様なんですか?」
お茶を出しながら太一は聞いた。
「圭吾の、あの子のお嫁さんになってもらおうと思って」
圭吾の母親の言葉に太一は驚く。
「嫁って、あの、だって圭吾は…」
先が永くないと言いかけて太一は口を紡ぐ。
そこに華と紅、そして連二郎もあらわれた。
「朝早くから申し訳ありません。実はうちの息子の圭吾の嫁にぜひお宅の華さんをいただきたいと思いまして本日おじゃましました」
紅と連二郎は互いに顔を見合わせた。華の顔は縁談の話しに頬を赤らめる。
「嫁、といわれましても華はまだ16、しかもそちらのご子息とはまだ知り合ったばかり。あまり話しが早すぎはしませんか?」
連二郎が言葉を返す。
圭吾の母親はお茶を一口すする。
「16で嫁ぐ事は早いことではありませんし、顔の知らない者に嫁ぐのも当たり前ですのに圭吾と華さんはお互い好意をもっている。なんの問題もないと思いますが」
お互い好意のところで連二郎は華を見た。頬が赤いのは初めての縁談だけのせいでは無い様だ。
「とにかく、今はお話しだけうかがっておきますから。今日のところはお引き取りを…」
圭吾の母親は華の両手をにぎりしめ懇願した。
「お願い、華さん。あの子には…圭吾には時間が…」
鬼気迫る圭吾の母親の姿に華は思わず手を振りほどいた。
すかさず紅が間に割って入る。
「お引き取りを…」
紅が静かに話すと圭吾の母親は立ち上がりフラフラと出て行った。
太一は心配になり後を追う。
圭吾の母親は少し先の曲がり角で地面に座り込んでいた。
「おばさん。大丈夫かい?」
太一の声で我に帰った顔をして太一を見つめる。
「太一さん。圭吾の望みなのよ。あの子口には出してないけど…。どうにかして叶えてやりたいの。お願い、力を貸して」
圭吾の母親の必死な頼みともうすぐいなくなる親友に何かしたかった太一は頷くしかなかった。
「華さんは俺が何とかします。おばさんは圭吾の体の事頼みます」