「魔王を倒したあと、何をして遊ぼうかなー」
勇者がつぶやく。
「そんな先のこと言われてもなあ」
隣の布団で寝ている戦士が答えた。
「とりあえず、お金はいっぱい貯まってるよね!」
勇者が皮算用をして、胸をワクワクさせる。
「あのう…冒険中に稼いだお金は、すべて国庫に帰属されるんですけど」
神官が、布団から起き上がって言った。
「えーっ!」
「だって、ほとんどのお金は、モンスターを倒した時に手に入れたわけで、そのお金というのは、モンスターが罪もない人々から強奪したものなわけで」
「うん」
「つまり、あれは他人様のお金なわけです。魔王を倒すまでは大目に見てもらえますが、クリア後もそれをネコババし続けるのは世論が許さないでしょう」
理路整然と、神官が説明する。
「じゃあ、宝箱のお金は?」
納得いかない表情で、勇者が食い下がる。
「もちろん、国庫に帰属です。本来、交番に届けるべきところを、冒険の費用に流用していたわけですから」
「それに、クリア後の報酬なんて、あまり期待できないしな」
戦士が、ドライな見解を付け加える。
「じゃあ、どうやって生きていけばいいんだよう」
勇者が、将来の不安に襲われはじめた。
「私の場合、実家の教会を継ぎますけど」
涼しい顔で、神官が言ってみせる。
「いいなー。既得権益いいなー」
勇者が、ねたみ全開の態度で言った。
「オレの場合、冒険で鍛え上げた肉体を生かして、土木作業員にでもなろうかな」
戦士は、自分の適性をわきまえている。
「ぼ、僕は肉体労働なんかしたくないよう。だって勇者だし、勇者はラクして稼げるはずだと思うし、だって勇者だもん。高卒だけど、勇者だもん!」
幼い頃から甘やかされてきた勇者には、まだまだ世間というものがわかっていない。
「肉体労働がイヤなら、通信教育で資格でも取得すればどうですか?」
よせばいいのに、神官が中途半端なアドバイスをする。
「あ、それだ! 通信教育なら冒険しながらでも勉強できるし、いいアイディアだね!」
「例えば、ホームヘルパ「弁護士がいいなー。僕、弁護士になろうかなー」
神官の現実的なアドバイスを遮り、勇者は途方も無いことを言った。
「さっそく明日、資料請求しなきゃ!」
絶望が希望に変わると、ほっとしたのか、勇者は3秒で眠りについた。