2-3 椿
『お侍さん。』
女は短刀に手をかけたまま動かない抄司郎に声をかけた。
『私を斬るのですか?』
抄司郎は黙り込んだ。
女の澄んだ視線が痛い。
『斬るならば早く。
じきに追っ手が来てしまいます。』
と,女は抱えていた刀を抄司郎に渡した。
死を恐れていないのか,顔色を何一つ変えない。
『見つけたぞ!!人斬り野郎!』
その時,
堤の向こう側から数名の追っ手が現れたと思ったら,抄司郎と女は辺りを敵に囲まれた。
『京右衛門の仇。討たせて貰う。』
追っ手はそう言うと,
一斉に抄司郎に斬りかかった。
無論,女も巻き込まれた。
負けなしの抄司郎には相手にもならない敵だが,
人数が多いせいか少し手こずっていた。
後方で,小さな女の悲鳴が聞こえた。
逃げようとして転んだのであろう。
女は,今まさに追っ手に斬られようとしている。
― しまった!!
抄司郎の中で妙な感情が芽生えた。
― 助けなくては。
何故こんな感情が芽生えたのか分からないが,
抄司郎は自分の相手を素早く片付けると,
女の前に回り込み,
斬りつけようとしていた追っ手を,鮮やかに右袈裟に斬った。
『‥大丈夫か。』
『‥ はい。』
これが,
女と抄司郎が初めて交わした会話だった。
≠≠続く≠≠