電話越しに聞こえる春樹の声。
私と春樹が逢う様になってから一ヶ月位経っていた。
私は、毎日春樹の声を聞く度に嬉しくなり、幸せな気持ちになっていた。
でも、その電話は春樹が私に別れを告げる最後の電話だった。
「もう、逢うのやめよっか?」
春樹はそう言った。
そんな言葉を口に出来た春樹の気持ちは、きっと私より軽かったと、そう思った。
「いいよ」
私には平気な振りをする癖があった。
春樹に伝えたい気持ちも、言葉も沢山あった。
【どうして?亜弥が好きって思ってくれてたんじゃないの?ヤダよ。本当にもう逢えなくなっちゃうかもしれないんだよ。】
そう言いたかった。
でも、言えなかった。
その電話を最後に、春樹からの連絡は途絶えた。
私も春樹が今の彼女との、これからを考えてるなら、連絡するのは止めようと、自分の気持ちを心の奥に押し込んだ。
【これで良かった】
【こうするしか無かった】
【始めから、結末は決まっていた】
【だから、亜弥は大丈夫。】
そうして私は、春樹を想う自分の気持ちから、逃げ続けた。
その時から、逃げ切れない事にも、気付いていた。
春樹と逢えなくなってから三ヶ月後。
私は彼氏とも別れた。
別れを告げたのは、私だった。
この三ヶ月間私は彼氏に、春樹の話ばかりしていた。
その頃の私に、違う人の気持ちなんていらなかった。