「夕樹さん、ごめんね。時間作ってもらって」
「いえ。話って何でしょう?」
勇一は、紀子の方を見て合図をした。
「夕樹さん、突然すみません。私、2年前まで、この近くの病院で、看護士をしていた森田と申します」
「はあ…」
しばしの沈黙のあと、紀子は思いきって切り出した。
「あの…奥村さん、奥村利夫さんの看護を担当していました!」
「え?利夫の?」
「はい」
「…そうですか。あなたが…。利夫が亡くなったあと、担当していた方が、辞められたと聞いたものですから」
「はい。奥村さん、夕樹さんには病気のことは伝えないでくれって、最後まで言ってました。…奥村さんの思いとゆうか、夕樹さん、あなたへの思いとか、いろいろあって…辞めたんです」
「そうですか。きっと、森田さん、あなたは利夫にひかれてたんですね?」
紀子は、返す言葉がなかった。
そのとおりだからである。
「私ね…森田さん、留学から帰って利夫が亡くなったことを聞いたの。利夫は、自分が頑張っていることなんて、一言も手紙に書かないんだ。ただ…私に頑張れって…」
確かにそうだ。
利夫は、自分のことより、周りのことばかり気にしてた。
自分が病気になってからも…紀子も利夫に勇気づけられていた。
「正直ね…私この2年間、無気力だった。通訳になる夢も捨てちゃってた…利夫とゆう支えをなくして…」
幸子の思いを聞いて、勇一はまるで自分のことのように感じていた。
自分も、由美の消息が途絶えた時のつらさを感じていたからである。
「夕樹さん、森田さんは、渡したいものがあるんだよ」
「渡したいものですか?」
「ああ」
「何ですか?」
紀子は、懐から手紙を出した。
「これです」
それは、由美が勇一に書いた手紙の封筒と同じ、黄色の封筒だった。
利夫も同じものを使っていた。
「それは…利夫が使っていた封筒です…まさか利夫が書いたものですか?」
「そうです。私…託されたんです。2年たってから、渡してくれと…」
「2年?なんでそんな…」
「わかりません。ただそうして欲しいと…」
「…そうですか。利夫、どんな思いだったんだろう?きっと、その思いもわかるのかな?」
「きっとわかると思うよ」
勇一は、自分のこともあり、そう思うからこそ、そう言った。