「そっか…。ん!そういえば、そんな感じの生地があったと思う!」
空いたお皿に手を合わせて
「ごちそうさまでした」
頭を下げて、ちさは3段ある脚立を取ってきた。
「確かこの中に…」
脚立に登り、棚の上段にある箱に手を伸ばす。
とっさに僕はちさが落ちないように、脚立を支えた。
「ん〜と…」
箱の中をまさぐりながら、ちさが言った。
「でも今日、トーマがいてくれて良かった。思ったより順調に進みそう」
嬉しそうなちさの横顔が見えた。
違うんだ。
俺が今日、ここに来ようと思ったのは。作業の効率を狙った親切心じゃない。
ちさと一緒にいたいという、単なる恋心でもない。
響には。俺の知らない、ちさとの時間がある。
俺も、響が知らない、ちさとの時間が欲しかったんだ。
これは、嫉妬と名を借りた『競争心』…だと思う。