よーう、こっちだ。猫八ー。
 にゃに呼んでるんにゃっ
 気心の知れたふうに呼びかけられた猫は 滑らかな足運びで子猫のいる卓へ向かい来ます。
 白黒のブチの足先は黒かろうと白かろうと土ぼこりを被り毛羽立っていました。
 隙のない半月形の目、ふかふかした頬、がっしりした体格に厚みのある毛並み。
 そのふてぶてしさには黄色い悲鳴があがります。
 おう、待たせたな。猫丸よ。
 対照的にスレンダーな相棒に一言かけると やはり気がねなく同じ卓を囲んで腰をおろしたのでした。
 仰天したのは子猫です。
 慌てて卓の下に身を沈めると見つからないうちに くぐって反対側へ抜けてしまおうと試みたのでしたが、不幸にも蛙に巻き付けられた風呂敷の端が卓の裏側に出た木の ささくれに引っ掛かり ほつれて中身が散らばり落ち、仕込まれていた小さな鈴が複数 転がり出たのでした。
 なんだ?!
 鈴の音に すぐさま反応して卓の下を覗きこんだのは 猫八と呼ばれたブチ猫の方です。
 あー!てめぇは!
 情けない表情の子猫と目が合った途端、猫八は卓の下にムチムチフカフカの身体を無理矢理 潜り込ませ子猫の小さな身体を、首根っこ くわえて引きずり出したのでした。
 子猫は母猫に棲み処を移動してもらうときに必要な遺伝的慣習、本能によって身を縮こまらせざるを得ず、抵抗らしき抵抗もできずに捕獲されてしまいした。
 しかし、それも致し方のないことです。母猫は様々な危険から子猫たちを護るために幾度となく棲み処を移り渡り歩くのですから、子猫はスムーズに なるべく多くの兄弟姉妹が移動し終え生き残るよう 母猫に協力しなければなりません。
 突発的な一部始終を諦観した面持ちで見ていた猫丸は いったい何故に このような次第になるのか 子猫にとも猫八にとも つかずあきれた様子で尋ねます。
 こいつは わいの商品 持ち逃げしおったんじゃぃ!
 違うにゃ不可抗力にゃ。どうすることも できにゃかったんにゃあぁ!
 商品って、あのまたたび入りマッチか...?
 おうよ。絶品じゃろがっ。
 まーな、けどなら子猫が使う訳ねーな。
 どこ持ってきおったぁ!?
 ち、違うにゃぁ!寒くて つい火をつけたら 全部なくなって しまったんにゃ゛ー(泣)