ミユキは、赤いアロハシャツを着て少々日焼けしたその男のことを、すぐには思い出せなかったが、小屋に掲げられているノボリを見てピンと来た。
「ラーメン…定額給付金……!!」
男は以前食べた、崖の下のラーメン屋の店主だった。
ミユキは驚いて話し掛ける。
「アナタは、あの崖の中腹に有った『ラーメン年金問題』のご主人ではありませんか?何故、今ここに居るのです?」
「へぃ、いかにもアッシは、『年金問題』の男でありやす。年金問題が騒がれなくなった昨今、新たな解決の糸口を見つけるべく、ここ『ラーメン定額給付金』にたどり着きやした」
男の返事は、まったく答えになっていなかった。
しかも若干、目が潤んでさえいる。
ミユキは半ば呆れた気持ちを、押し殺して言った。
「やっぱり、あんな場所では、お客は来ないですもんねぇ」
「ええ…年金問題では、やはり人々の心は、つかむことは出来ませんでした。それよりも、世の中の関心は、定額給付金に移ってるって事に気付いたんです」
「エコポイントも関心あるよー」
マモルが海を眺めながら、話に加わった。
「ええ。ウチは“エコポイント”も付きますよ!」
男はポイントカードを広げながら、得意気に答えた。