4月9日。
「うし!やっか!」
グローブをパンパンと叩き、構える龍吾。
「でも…」
少年は戸惑う。
「大丈夫だって!オレが何とかフォローしてやっからよ!」
「…ありがとう」
この少年は、キャッチボールをしたことがなかった。
「つーかお前…名前何ていうんだよ。」
龍吾は近づき、少年に問う。
「岬…」
「伊達…岬…」
「み…さ…き…。女の子みたいな名前だな。まっ、オレはいい名前だと思うけどな。」
岬の顔が、少しずつほころんでいく。
あれだけ落ち込んでいたのが嘘のようだった。
「そっちは?」
岬も同じように龍吾に聞く。
「あ。悪りィ。オレは…飯岡龍吾。野球部でピッチャーやってる。」
「へぇ。すごいんだね。」
静かに野球の練習を見ていた伊達岬は、少し長い髪に切れ長の目が特徴。同じく中2だ。部活はやらずに帰宅部だ。
すると、龍吾が何かを考えている。
どうしたのだろう。岬はなんか不安になってしまう。
「じゃあ、岬だから…みーくん!」
なんだ。考えていたことはそんなことか。不安が一気に吹き飛んだ。
「すごいね。よく呼ばれているあだ名だよ。」
「おっ、すげぇオレ。」なんなんだろうこの人…岬は、はっとした。
自分の目から、一筋の涙がこぼれていたから…。純粋な涙から、始まっていった。
二人の、壮絶な友情物語が。
まさか、この友情の終わりなんて、あの時は、きっと思っていなかっただろう。