(それにしても、これはどういうお話なのかしらね…。)
美香が考えあぐねている間に、王子は女の子の横に膝をついて尋ねた。
「何を作っているの?」
「ん、傷薬!」
「へえー、すごいねえ!」
王子が感心して頷いている横に、美香も座り込んだ。
「あなた、名前は何て言うの?」
「リリィだよ。魔女っ子リリィ!」
リリィは真っ直ぐに切り揃えた前髪の下の丸い瞳を、にっこりと細めながら言った。
「「魔女!?」」
美香と王子はすっとんきょうな声を上げた。美香は王子の顔がサッと青ざめたのに驚いた。
王子の顔色と少しだけ引いた体を見て、リリィは表情を暗くした。
「やっぱり怖いんだ……魔女は怖いもの、だもんね……。」
その顔を見て美香は不意に、なぜリリィがこんな人里離れた家で叔母さんと二人暮らしなのかピンときた。
「つまりあなたは魔女だから、こうしてこの家に閉じ込められているのね……。」
「うん……。」
リリィがまつ毛を伏せて悲しそうな顔をすると、王子は流石に悪いと思ったのかもぞもぞと体を動かした。
美香は不思議に思って王子に尋ねた。
「あなたはなぜ魔女が怖いの?」
「だって……魔女といえば、いつも王子を石にしたり殺そうとしたりする怖い人じゃないか。」
美香はぽかんと口を開けて、次の瞬間には声を上げて笑い出した。
「こんな小さな子供が、あなたを本当に石にできると思う?あなたって案外臆病なのね。」
王子は綺麗な顔を歪めてムスッとしたが、何も言い返さなかった。やっぱり怖いことに変わりはないのだろう。
今度はリリィの方が不思議そうに美香を見た。
「お姉ちゃんは私のこと怖くないの?」
お姉ちゃん、という単語に、一瞬舞子を思い出して心臓がドキリと跳ねた。しかし美香は必死で気づかないフリをして、ぎこちなく微笑んだ。
「怖くなんかないわ。私、魔女、好きよ。」
美香には白雪姫に毒リンゴを差し出す魔女のイメージより、善い行いをする魔女のイメージの方が強かった。何かこう、魔法で人々を救うような。
美香の言葉を聞いて、リリィはパッと顔を輝かせた。
「よかった!」
太陽のような笑顔に、この子は本当に表情豊かな良い子なんだな、と美香はふと思った。やっぱり、きっと善い魔女なんだ……。