正太「チャリ置いてくるからちょっと待ってろ。」
正太と隼人は正太の住むマンション(隼人の新聞配達先で最も過酷な13階立て)に着いた。
8階でエレベーターを降り、一番西側の部屋のドアの前まで行き、正太が鍵を開ける。
「ただいまー」
「あーお帰り。あら隼人君まで。」
リビングのソファーでくつろぎながらテレビを見ていた正太の母親が二人に気づき、振り返った。
鈴木家は正太が中学に入るのに合わせて今のマンションに移った。
それまでは隼人と同じ団地に住んでおり、隼人は小学生の頃、母親が夜パートに出る日は弟と共に鈴木家に預けられていた。
正太の両親としても一人っ子である正太の遊び相手になってくれる隼人たちを歓迎しており、お互い持ちつ持たれつの関係が成り立っていた。
「おばちゃん久しぶり!」
「隼人君制服かっこいいね〜ネクタイも似合ってるじゃん」
「あっこれ、首の後ろで止めてるだけだから」
隼人は褒め言葉に対してのリアクションに困り、ネクタイが締めるタイプではないことを伝えて照れをごまかした。
「二人ともお腹空いてるでしょ。今何か作るからね」
正太「いいよ、帰りにパン食ってきたからあんま減ってない。それより今から隼人に勉強教えっからテレビもうちょい小さくして。」
「はいはい。あーそういえば今日天むす買ってきた残りがあるんだけど、お父さんとお母さんで食べていんだね?」
二人に世話が焼きたい正太の母親が、自分の声だけ聞こえるようにリモコンでテレビの音量を下げ、とっておきのカードを少し意地悪そうに切り出すと、、、
「「ちょっと待ったー!!」」
正太の部屋へ向かおうとしていた二人は立ち止まり、声を重ねた。
隼人も正太も天むすが大好物だ。二人が中学の時、野球の試合がある際には度々正太の母親が差し入れてくれた天むすは冷めてもうまい。また、あったかいうちは匂いも格別だ。
隼人「おばちゃん、“天むすは別腹”ってよく…」
正太「言わねーよ!」
隼人のボケに正太がツッコミを入れる。
正太「でも腹が減っては戦は出来ぬとか言うしなー。とりあえず天むす食ってからにするか!?」
結局二人は天むすにありついた後、正太の部屋へ入った。