猫八は散々 子猫を脅かした後なので すぐ引き下がるのが気恥ずかしかったのですが蛙の煎餅は ぜひとも得たいと思います。
子猫に この煎餅の価値を気取られる前に条件を承諾するのが得策だと判断し、猫八は その中途半端な長さで握り心地のよさ気な尾のように しっかり図太い精神力で仕切り直し、さも恩着せがましく 勿体つけて 子猫を見逃して あげることにしたのです。
ちっ、しゃーないのぅ。ちっぽけな煎餅じゃが、猫丸の顔を たてちゃるわ。
と言い残し煎餅を ふかふかの唇に くわえると かろうじて聞き取れる括舌で 子猫に二度と組には戻って来るなと 申し渡したのでした。
よかったな。
爺さんと仲良く暮らせってよ。
猫丸の言葉に子猫は まんまるく目を見開いて姿勢も美しい猫丸の横顔を見上げます。
そうにゃんにゃ?
てっきり顔も見たくにゃいほど怒ったのかと思ったにゃ。
俺らみたく 争い事が日常茶飯事だと 言いたいことがあっても素直に言うわけにゃ いかないのよ。
口の端だけで軽く微笑んでみせる猫丸の目は鋭くも奥深い思慮が伺えます。今までに数多くの事象を見てきたと、その目は語っているのでした。
やっぱりカッコイイ?と子猫は心の中で思います。
ありがとうにゃ。
今日会ったばかりにゃのに助けてくれるにゃんて。
さっきは失礼なこと言って申し訳にゃかったにゃ。
子猫は謝辞を こめて頭を ぺこりんと下げました。小さく丸い ぽふぽふの おてては きちんと揃えられています。
いや、何だ...そのー大したことじゃない。
むしろ猫八に貸しを つくってやったくらいだ。
それより笛の話は、もう良いのか?
そうです。思わぬアクシデントに うっかり記憶の消し飛びかけていた子猫は 慌てて猫丸に改めて頼みます。
良くにゃいにゃ。
お願いにゃ、その笛の力を貸して ほしいにゃ。
鼠が異常増殖して伝染病でも発生したのか?フェーズいくつだ?
ち、違うにゃあ..そんな大事件じゃにゃい。
ただ自分は鼠を上手く捕れなくて、せっかく お爺さんの家に おいてもらってるのに ちっとも役に立てて にゃいのにゃ...。
だから力を借りたくて ここまで来たのにゃ。どうかきいてほしいにゃ...!