2-6 椿
女の目が覚めたのは,
ちょうど太陽が昇りかけた頃だった。
― ここはどこ?
見慣れない景色に女は微かに恐怖を覚えた。
だが,
挫いた足が丁寧に手当てされているのを見ると,
危ない所ではないのだと確信できる。
『あら,目が覚めたようだね。』
ちょうど女の様子を見に来た旅籠屋の女将,トシが言った。
『ここは柳瀬屋。旅籠だよ。あんた,何も覚えてないのかい?』
『‥確か,お侍さんにおぶってもらって‥。』
トシの気さくな性格に,
女は怯える事もなく答えた。
『そう,そのまま眠っちゃったんだよ。お侍さんの背中で。』
トシはその時の抄司郎を思い出して,
『わたしゃ,あの人のあんなに戸惑った顔を見たのは初めてさ。』
と,吹き出して笑った。
『あの人が帰ったら礼の1つでも言ってやると良いよ。あんたのその足の手当てまで,してくれたんだからさ。』
『‥そう,なんですか。』
女は手当てされた足を見た。
― 悪い事をしてしまった‥。
女は素直にそう思った。
≠≠続く≠≠