俺は変になった。
いや、変だったというのが正しいのかもしれない。
なぜなら俺は今、2階立てのバスに揺られ、腰には刀をさし、隣には拳銃をもった女がなにやら楽しげに、通路を挟んで隣の席の女と話しているからだ。
窓の外には一面、薄汚れた白銀の世界が広がっている。
白と呼ぶには余りにも相応しくないくすんだ色だった。
道路沿いに立ち並んだ木々は、巨人が踏み倒したかの如くへなへなに曲がり、様々な見たこともない動物が跳ね回っている。
バスの車内に目をやると、40人程の同世代であろう若者たちがそれぞれぎこちなく、このバスに揺られる憂鬱とも呼べる時間を過ごしていた。
誰一人として、見知った奴はいなかった。
そう、俺は変になったのだ。
中学3年の最後の試合。
剣道部の主将だった俺は、練習に汗を流した成果を見事に出し切った。
一緒に辛い練習を乗り切ってきた仲間たちと涙を流す。
まだ短い人生の中で最も充実した時間だった。
そして、優勝した者にのみ与えられるトロフィーをよく分からんお偉いさんに頂くことに。
すると、真ん丸おめめでひげづらのおっさん、もといお偉いさんは俺の耳元でこう言った。
「頑張るんだよ。」
普通、「おめでとう。」だろ。
と、心の中でツッコミを一つ入れ、努力の勲章を主将として受け取り、気付けばもう排気ガスを遠慮なく垂れ流すバカでかいバスの中にいた。
夢か。
いやいや、タイムスリップか。
混乱する頭を外の景色が余計に難攻不落の迷路へと案内する。
あからさまに落ち着きを無くし、そわそわしだした俺に、隣の拳銃女が、
「あんたも魔女のりんご食べたん?あかんで〜。あいつのりんごは。うちもしくじったわ。りんごには目がないことバレてたんかな。」
と、間髪入れずに話しかけてきた。
こいつは何の話をしているのだろうか。
わかったことは、変なのは自分だけじゃないということと、この拳銃関西弁女、思いの外かわいいということ。
そして、こいつもまた、自分の意思でこのバスに乗ったのではないということだった。