「じゃぁウチ、家ここだから。」
自分の家を指差しながら、私はそう言う。
「マジで！？近っ！！」
今木さんが驚いた表情で言う。
無理も無い。なんたって中学校から私の家までたったの徒歩五分ぐらいなのだから。
「と言う事でじゃぁね。」
そう言い、私は逃げる様に家の中に入って行く。
私の家は五階建ての二階に住んで居る。
「ただいま。」
家のドアを開け、私は疲れた様な声を上げる。
「お帰り。」
リビングから母の声がする。
「だぁ！！」
赤ちゃんの声が、どこからともなく聞こえる。
「ただいま。雅。」
生後六か月の池内雅。
正真正銘私の弟だ。
弟が生まれたのは、私が小6の時。
その日は連合運動会の前日だった。
まだ一時間目が終わったばかりの時、いきなり父が私達の教室に現われた。
先生と廊下で何かを話してから直ぐに、私が呼ばれた。
私は何の事か分からず、ただ言われた通りに父の元に寄る。
「直ぐに荷物持って、病院に行くぞ。」
訳も話さず、いきなり父はそう言う。
私はとにかく、父のいきなりの台詞に驚くばかりだった。
私は急いでランドセルに教科書を仕舞い込み、それを持って父の後を追う。
「五十嵐病院まで。」
学校の前に待たせていたタクシーの運転手にそう伝える父。
私は今だに、現状が把握出来て居なかった。
「ねぇ、一体どうしたの？」
タクシーの中で、私はおそる×2父に尋ねる。
「実は、母さんが破水したんだ。」
嬉しそうな、焦った様な表情をしながら、父は答える。
私はただ、驚くばかりだった。
当時母のお腹の中には、妊娠九か月の赤ちゃんがいた。
その赤ちゃんこそが、今居る雅なのである。
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