「じゃ勉強始めっか!」
正太はスウェットに着替えると問題集のコピーを取り出し、椅子に腰かけた。
「うーん地理、歴史、公民… 中学でやったやつの復習みてーだな。へぇーお前んとこ、今歴史やってんだ。」
正太は一通り問題集に目を通すと、
「なんか尾張ヶ丘ってバリバリ“戦国”みてーなイメージ沸くもんな。それにお前のフォームってさ、こう、なんつうか、武士が刀を振り下ろすって感じの投げ方だもんな。」
投げ真似をしながら隼人に目をやる。
「ぐふっ、えっほっえっほっ、さ、さようでござるか!?」
隼人は正太の唐突な言葉に、まだ口に含んでいた天むすを喉に詰まらせながらも戦国ネタには乗ってきた。
正太「よし!今から俺解いてみるからお前もやってみろよ。」
隼人のために取り出した小さなテーブルの脚を立てる。
隼人「俺勉強してねーからわかんねーよ。」
「わかる所だけでいいから解いてみろって。」
正太は隼人にやってみるよう促すと机に向かい、ペンを走らせる。
隼人もブレザーを脱ぎ、テーブルの前であぐらをかくと、カッターシャツの袖をはぐり、一応やる気を見せる。
しばらくボーっとしていたが、正太が黙々と問題を解く姿を見て渋々ペンを握る。
すっかり静かになった部屋で聞こえるのは、時計の秒針が動く音とペンが問題用紙を介して机を叩く音だけだ。
30分後、
正太「よーし、できたー。隼人お前の方はどうだ?」
隼人「全然わかんねーさっぱり。俺には無理無理。」
正太「ぶっちゃけ勉強なんて、やるかやらないかだけだと思うぞ?」
隼人「そりゃーお前はトヨチュウ行けるだけの頭あるからそう思うんだよ。」
正太の通う豊田中央高校は県内でも指折りの公立進学校ながら、春のセンバツ甲子園に出場1回、夏の愛知大会準優勝6回と野球にも力を入れている学校であり、高校野球の指導者を目指す正太にとってこの上ない進路であった。
正太は推薦入試の際、中学の東海大会で優勝したことを評価され合格した経緯がある。
正太は東海大会優勝の原動力になった隼人に感謝しており、熱心に隼人に勉強を教えるのもそのためであった。
「とりあえず見せてみろよ。」
正太は隼人の問題用紙を受け取り、採点を始めた。