「ところでオヤッサン、これだけは正直に答えてくれ。一体、誰にそそのかされて、ここに来たんだ?」
マモルは亀山に聞こえないように、小声で尋ねた。
オヤッサンは、『別にそそのかされた訳では無いが』と前置きした上で、こう答えた。
「ショウという男だ」
その瞬間、ミユキの身体がピクリと大きく反応し、うわずった口調で言った。
「そ、その人の…特徴って分かりますか?」
「特徴…そうだな…背は高かった…180くらいあったかな。髪は茶髪で…割と短かかった」
――すべて当てはまっている。ミユキは、そう感じた。しかし、まだ決め手に欠ける。
「あの、顔の特徴を教えて下さい」
ミユキは更に尋ねた。
「その男は…いつもマスクを着けてたから、顔はほとんど分からないんじゃ。すまんのぉ」
「そうですか…」
ミユキが、それ以上の情報収集を諦めかけた時、オヤッサンが何かを思い出した。
「あ。左目の下に、小さなホクロがあった」
ミユキは確信した。間違いなくショウだ。
あの日の夜、彼女であるミユキとの約束の場所に訪れず、突然いなくなった男――まさしくショウの特徴だ。
ミユキは、巡り巡って偶然知り得たショウの手がかりを、あたかも神様からのプレゼントのように感じた。