迷想

コトミ  2009-06-29投稿
閲覧数[165] 良い投票[0] 悪い投票[0]

「池内美紀の夫と娘ですけども…。」

五十嵐病院に着くやいなや、駆け足で受付に向い、早口で父は話す。

「これを付けて、六階の二号室に向ってください。」

私と父の分のバッチをカウンター越しに渡し、パソコンを眺めながら、受付の女の人が言う。

「……。」

今私はエレベーターの中で父と二人っきり。
何も話す事が無く、気まずい空気がエレベーター内に流れる。

早く…早く…。

階数が書かれている場所を見ながら、私はそう願う。

チーン…。

六階に着いたエレベーターの合図と共に、閉ざされていたドアが開く。

「……。」

また、無言のまま、父は歩き出す。

迷う事も無く、父は602号室とプレートに書かれた部屋の前に立ち、一回深く深呼吸をする。
それから、ゆっくりと部屋のドアを開ける。

「具合はどうだ?」

さっきまで無言だった父が優しい口調で喋り出す。

「うん。さっきよりは楽になった。」

「そっか。」

安心したような父の声と、私の母の疲れ切った声が聞こえる。

私は物音もたてず、部屋の中へと入って行く。

その時私は、どう反応すれば良いのか半分分からなかった。

小さな部屋の中心に置かれたベット。

そのベットには、患者がよく着る服を着て、横たわって居る母の姿があった。

そしてその母の周りには、見慣れない機械が三機ほどあった。

「…大丈夫…?」

余りに気になった私は、母に問い掛ける。

「舞衣。来てたの。お帰り。」

疲れた様な声を出しながらも、母は笑顔で言う。
「うん。ただいま。それより、体の方は大丈夫なの?」

その後の私に対しての母からの返事は、想像を絶するものだった…。



投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 コトミ 」さんの小説

もっと見る

恋愛の新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ