寝息を立てる翔太をこんなに近くで感じてる。
『おはよ。翔太。』『おはよ。…学校。』『もう10時だよ。今日はズル休み!いいでしょ?』『うん…。』
━━それから二人でいろんな話をして。翔太が私の右手を握って、「この傷なに?」って聞いた。
『これ?小3くらいの時かな。友達と廊下歩いてた時に、鉛筆の芯を掌に、こんな風に握って…』━━翔太の小指を優しく握る。『そしたら、後からオトコの子に押されて、転んでね、鉛筆が刺さっちゃった傷なの。…あの時は血がいっぱい出て、痛くて痛くて泣いてたのに、今はね痛くない。傷は消えるって言うけど、消えないかもしれない。でも、痛みって、いつかはみんな消えるでしょ?体の痛みも、心の痛みも…少し時間はかかるかもしれないけど。…翔太の痛みはちゃんと消してあげるから。一生かかっても…』━━初めて自分からするキス、初めてのキスの時よりもドキドキして、体が震えた。翔太も少し顔が赤くなって、笑った…。
『じゃ、お前の傷は俺が治すか。』
━━二人で笑った。左手の薬指を触りながら、指輪が一生外れない様にと、翔太に気付かれない様に神様に何度もお願いした。
『昨日どうしたの?カゼ?』『ごめんね。アイ…ちょっと、お母さんの実家に帰ってたんだ。』━こんなに上手く嘘もつける様になった。『そうなんだ…。あっ!それ…指輪…やっぱり不倫!?』『えっ?』━━ヤバイ…。忘れてた…『…あ〜これ?昨日おばぁちゃんに貰ったんだ♪いいでしょ。』━━上手に嘘をつける様になったのは、翔太に感謝だけど…嘘をつかなきゃいけない状況を作っている翔太には、感謝なんてしたくない…。
『でも、なんで左手の薬指にしてるの?』『もちろん、カワイイからオトコ避けよ。』『そう言うこと真顔で言うから怖いよね…』『だって、本当のことだもん♪』
何気無い会話を大切だとは思わなかった。それが人間でしょ。