自殺に備え某洗剤を2本カゴに入れた。
「ふたつ買うの?」
私の背後の低いほうから声が聞こえた。
声のほうへ振り返ると一人の少年が私を見ていた。不思議そうに。
そのとき、初めて私に問い掛けたのだと気づいた。
ビックリして、一瞬戸惑った。
死んだ目だった私。無邪気に話し掛けてくる少年を見て
「うん、いつも2つ買うんだよ」
となるべく明るい声で返した。暗く毒の含んでそうなオーラを悟られたくない気持ちがあったのかもしれない。
「もう無いんですかね?」少年がまた問い掛けてきた。
私が手に取った洗剤は、少年には高すぎる位置にあったから見えなかったのだろう。
「ほら、上のほうにあるよ」私が教えてあげた。
久しぶりに人と会話した。温かかった。
あどけない少年は私の暗い気持ちを拭ってくれたような気がした。
少しだけだけど前向きになれた。
死にたい気持ちは言葉にしないと誰も気づいてくれない。
言葉に出したら出したで、いかにも偽善ぶった言葉か適当な精神論しか言わない。
誰もろくなこと言わない。
幼い子はよく不思議な能力を持ってると言われる。
あの少年は、大人が近づきそうにない私の負のオーラを感じたのかもしれない。
僅かな会話だったが、光が射したようだった。
助けてくれたのかもしれない。
改めてカゴの中を見る。
殺虫剤、カセットコンロのガス、何種類かの洗剤・・・。
「・・・。」
店の中を遠回りして会計に行った。少年にまた出くわすのが怖かった。少年が私の内心を見透かされてるようで怖かった。
店を出た。買物袋の中を覗いた。
さっきまで降ってた雨は止んでいた。