自分の声がかすれていると実感する。よく意味が取れなかったらしく、竜一は不思議そうな顔をした。
竜一『え?』
拓也『奴が校舎に入ってきたんだよ』
竜一『奴?』
拓也『昨日の奴だ』
竜一『マジ?』
拓也『間違えるはずないだろう?あいつのヤバい眼がこっちを見ていたんだからな』
グラウンドに視線を落とした直後、落下したような絶望感が体を支配した。眼が合った。
赤く光っていたかどうかなど覚えていないが、眼が合ったことだけは覚えている。
竜一『どうすんだ?』
拓也『逃げる。全力でな』
竜一『できるのか?』
拓也『できる』
そうでなきゃ、今度の死体は俺たちになるだけだ。
どうやって逃げる?
竜一『おい。なんか変な音しないか?』
拓也『変な音?』
そういえば固い杖で床を叩いているような音がする。
竜一『ヒールかスパイクの音か?』
音が聞こえやすいのなら大丈夫だ。
拓也『急ぐぞ』
竜一『あ、ああ』
何者かが校舎に入って来ていることがわかったためか、神妙な様子で頷いている。
早足に階段までたどり着くと、足音が途絶えた。
拓也『…?』
俺たちが下へ降りているのに感づいたのか?んな馬鹿な。
拓也『…』
今は三階。これから二階に降りようとする位置だ。廊下が見える。
拓也『…っ』
眼が合った。なぜ相手の眼が光って見えていたのかわかった。赤く、鋭い眼。まさか、人間じゃない!?
拓也『降りるぞ』
竜一『…!おう!』
全力で階段を駆け下りる。
硬い音はメチャクチャな速さで追って来ている。
竜一『オイオイ…』
廊下へ走り出して数歩。硬く重い音が真後ろから聞こえた。
振り向けば、丸くなっている黒い物体が見える。
腰ぐらいまでの高さしかないそれは、赤い二つの眼をともしている。人間じゃないな、マジで。
拓也『さて、どうする?』