現れたのは、スナック『メラミン』のマスターだった。ミユキが彷徨うきっかけとなった、あの日の夜に出会った男だ。
「やぁミユキさん。お久し振りだね」
男は言った。
「知ってるのか?この男」
マモルが、ミユキに聞いた。
「ウン。スナック『メラミン』のマスターなんだ」
「何だ??その…メラ何とかって?」
マモルは不思議がる。
「オイオイ、君達。今はもう、その店やってないんだ」
男はそう言うと、小屋の脇に、くくりつけられているノボリを指差した。
カフェ『パンデミック』と書いてある。
「何て危険な名前だ…」
マモルは思わずつぶやいた。
「今日から、ここでカフェを始めたんだ。スナック『メラミン』は、先日でおしまい。君達、美味しいコーヒーでもどうだい?」
二人がうなずくと、男はテーブルにアイスコーヒーを差し出した。
気が付くと、波の音に紛れてラジカセからCDの音楽が聞こえてきた。
「あ。ジャニスだ」
ミユキが曲に反応した。
「何?その、ジャニースって?」
マモルが答える。
「ジャニースじゃ無くて、ジャ、ニ、ス。ジャニス・ジョプリンのことよ」
「へぇ…」
「ショウが大好きだったの」
ミユキは、とても嬉しそうに言った。