正太「隼人、お前18問“も”正解だぞ!」
正太は採点を終え、結果を告げた。
隼人「18問“しか”できなかっただろ!?」
正太「社会科なんて暗記すりゃいんだよ。分からない所を徐々に減らしていきゃいんだよ。」
隼人「でもテストで80点取りゃなきゃいけねんだぜ?」
正太「80点つうことは8割正解すりゃいいってことだろ?お前中学ん時、8割どころか9割以上相手のバッター抑えてたぞ?」
普段は頼りない隼人も、いざマウンドに立つと人が変わる。リリースの瞬間、頬を膨らませ、鬼のような形相で投げ込むボールで次々にバッターを“討ち”取っていく。
隼人の投球は中学野球が投高打低(ピッチャー優位)であることを差っ引いても圧倒的だった。
隼人「いや、野球は別だって。」
正太「じゃお前、新聞配達何件ぐらい配ってんだよ?」
隼人「うーん、200件ぐらいかな。」
正太「ビンゴ!!配達先の世帯名とか場所覚えてんだろ?。だったらこの問題集の200問ぐらい覚えれるんじゃねーの?」
正太は隼人自身が努力をし、やり遂げてきた事例をあげ、失いかけているやる気を取り戻してくれるよう努めた。
しかし、隼人はそれを受けて黙り込んでしまう。
「そりゃ…そうかも…しんねーけど…」
しばらく沈黙が続く…
やがて停滞感が部屋中に充満していく…
「ぅ、あーー。」
正太はそれを切り開くように大きく伸びをすると、こう切り出した。
「俺、できることなら… できることならお前と高校でも一緒に野球やりたかったよ。左手の骨が粉々になっても構わねーからお前の投げる硬球受けたかったよ。」
正太は続ける。
「でも、お前ん家の事情とか俺の将来の目標とかあってそれができなかった。だったらせめて…せめてお前にガッツリ野球に取り組んでもらって、俺も高校でレギュラー取ってお前と試合で対戦したい。」
正太は思いの丈を隼人にぶつけると、ふーっと息を吐き、天井を見上げた。