ほんの小さな私事(35)

稲村コウ  2009-07-03投稿
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部屋に戻った私は、支度途中だった弓道着を準備し、部屋の片隅に置いたあと、机に向かい、ノートを開いた。
まずは、学校で出された課題をこなしてしまい、そのついでに、教科書の前のページをめくって、そこに出されている問題をこなしてゆく。
転校前、引っ越しなどで勉強の時間をとれなかった事もあるし、こちらの学校での授業は、東京の授業内容とは違っているので、その事も考慮して、復習も行っているのだ。
幸いな事に、今のところ、授業についていけない教科は無いが、出来る限り、復習をしておくに越した事は無いだろう。
余裕があれば予習もしておきたいのだが、今はそこまでやっていると、時間が掛かりすぎてしまうし、長く頭を使う事で、集中力が低下してしまうので、今は復習までに留めておくのが無難だろう。
今日は、数学と物理、そして、現代国語の課題をこなし、数学の復習を行った。
そこまでこなした所で、気付けば一時間近く過ぎていて、私は一旦、シャープペンシルを机の上に置くと、軽く座ったまま伸びをした。
その時、部屋の扉をノックする音が聞こえてきたので、「はい」と返事をして扉を開けた。
「お勉強中の所、お邪魔しちゃって悪いね。取り敢えず片付けも終ったし、何か飲み物作るよ。」
やって来たのは藤沢さんだった。どうやら私が勉強に集中している間に戻ってきて、台所の片付けを終えた様だ。
「あ、いえ…そんな気をつかって…」
そこまで言いかけた所で、藤沢さんは、私の唇の所に人差し指を当てて言った。
「そういう遠慮はいらないよ。私にしてみりゃ、あんたたちは家族みたいなもんだからね。さ、一息入れるのに何か飲んでおきな。」
そう言われ、私は少し、ジーンときてしまった。
やっぱり私も、家族の存在に強く依存したいと、心の底で思っているのだろう。
「それじゃあ、お言葉に甘えて…紅茶を頂けますか?」

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