子供のセカイ。33

アンヌ  2009-07-03投稿
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それからどうやって領域を越えたのか、あまりよく覚えていない。
ただこの忌まわしい場所から早く離れたくて、美香は傷ついた体を駆使して想像の力を使いまくった。ぐったりとした王子の体を宙に浮かせたり、煙突のてっぺんまで直通の歩きやすい階段を作ったり……。そして気づいた。ここでは想像の力は無限の力ではないのだと。美香は力を使えば使うほど何も考えられなくなっていき、瞳が虚ろになっていくのが自分でもわかった。蝕まれていくのはどうやら美香の精神のようだった。
そしてまた透明の壁を抜けるような不思議な感覚を体感したのち、今度は二人は何もない広々とした大地の上に立っていた。辺りは真っ暗で、空は降るような星空だった。足が沈むような感覚に驚いて足元に目をこらすと、砂だった。ここは大地ではなく、荒涼とした砂漠なのだ。
「寒い……。」
美香は気温の低さに驚いて身を縮めた。“真セカイ”では秋だったから、美香は長袖に半ズボンという格好だったが、それではカバーしきれないほどの冷気が鋭く肌を刺した。美香はすぐに砂に手を置き、焚き火を想像した。パチパチと明るいオレンジ色の炎が上がったのが見えた途端、それはぐにゃりと歪んでゆっくりと傾いていった――。
ドサッ。
「美香ちゃん!?」
王子の掠れた叫び声は、あっという間に闇の中に溶けていった。美香は奇妙に空腹を感じながら、落ちるようにして意識を失った……。


冷たい布が額に押し当てられ、ひんやりと脳の奥まで浸していった。気持ちよくて、もう少し寝ていたかった。だが、起きなければ。ほら、耕太の呼ぶ声がする――。
「……美香!……」
そういえば、昔からそうだった。いつも呼びに来るのは耕太だっけ。美香はそれをかわしたり、冷たくあしらったりと、散々に振る舞ってきた。だって耕太だから。誰からも好かれた美香は、何の努力もなしに好かれていたのではなかった。笑顔、心配り、優しい言葉……。思えば耕太だけだった気がする。気遣いも駆け引きも何もなしに、真っ直ぐに楽に向き合えたのは。舞子の特殊な力を知り、感情を殺すことで恐怖に耐え、徐々に周りのみんなが離れていくようになっても、耕太だけはいつも側にいてくれた――。
「……美香……ちゃん!」
美香はハッと意識が覚醒した。耕太じゃない。この声は……。自分の今置かれた状況を思い出して、ゆっくりと目を開けた。



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