手の痛さに私は思わず声を上げる。
「痛ーいっ!! なにすんの!!」
「メグミのはこれ」
そういうと母はトースターを指差す。
なんで私はトーストなの?
「もう、私はご飯党なんだから!!」
「今日はダメです」
すまし顔であっさりと否定されてしまった。
「それにまだトースト焼けてないじゃない!!」
「まだ、いいの。お父さん後何分?」
母の視線の先にはキッチンの隣にある居間で新聞を読んでいた父の姿があった。
父は電卓を取り出し、なにやら計算を始めた。
「走る速さを秒速5,5メートルと計算して学校までは……フムフム……」
何納得して電卓叩いてるんだか。うれしそうな父に少し腹が立つ。
って、もうこんな時間じゃない!
「で、この交差点が……だから、5分23秒後に家を出れば最高のシチュエーションになる」
「そんなことどうでもいいから。 私行くね」
「待てーーーーーーーいっ!!」
走り出そうとする私の目の前に父が立ちはだかる。
私が避けて通ろうとすると、バスケットのディフェンスのように左右に手を伸ばし、軽いステップを踏んで私に近づく。
「メグミ、よく聞け。今日…ハァ…お前のクラスに……ハァハァ……転校生が来る」
「え!? ホント? っていうか何でそんな情報知ってるの?」
「それは……ハァ、ハァ……秘密だ」
「お父さん、息が上がって何言ってるのか分からないよ」
「ふぁう、ハァハァ、たおあぁつ、ハァハァァハァ」
すでにディフェンスというよりも襲ってくるゾンビのようにふらふらしながら私に立ちふさがる父はどうしても変質者に見えてしまう。
あ〜、もうイライラしてきた。
「もうどいて!! 本当に私行くから!!」
父のディフェンスを本気で交わそうとするが、再び力を振り絞ったのか「フンフンッ!!」とか言って手をあらゆる方向に出し、通してくれない。
それどころか私のカバンを取り上げた。
「母さんパースッ!!」
「了解」
投げられたカバンを母が受け取る。
体が熱くなって何かがこみ上げてくる。
「もーっ!! もーーっ!! いい加減にしてっ!」