そして次の日の昼休み。
音楽室に着いたのは鈴が先だった。
「…。」
無言で柚希が手を挙げる。
「で、何?」
わかっているだろうが、柚希は問いてきた。
「他に好きな人が出来た。だから別れて。」
柚希が俯いたままだった顔をあげて、鈴を見た。
柚希は驚愕したが、その様子も鈴には映らない。
(こんな弘瀬見たことない…ぞ…。)
驚愕というより恐怖だった。
死んだような微動だにしない意志のない冷たい目。少なくとも柚希にはそう映った。
(弘瀬…俺のせいだよな。)
ただただ別れることにしか専念しないかのような目。
もちろんこんな鈴を見るのは初めてだった。
「…わかった。」
承諾しざるを得ない。
「じゃあ。今までありがとう。」
鈴はそう言ってこの場を立ち去ろうと思った。
(…あ。)
鈴の目から涙が出てきた。
それは柚希にもわかった。
「…弘瀬?」
緊張が和らいだせいか、鈴は目に涙をため込んでいる。
「ごめん。」
鈴はそう言って少し柚希の方を見たが、振り返ることはせずに階段を急いで降りた。
教室に着くと、幸いなことに人は少なかった。
鈴はそのまま自分の机に突っ伏した。